政策と科学のギャップ埋めるため知見・ツールを提供
新たな政府間科学・政策パネルとして、「化学物質、廃棄物及び汚染に関する政府間科学・政策パネル(Intergovernmental Science-policy Panel on Chemicals, Waste and Pollution:ISP-CWP)」が2025年6月20日に設立された。ISP-CWPは、各国の政策と科学のギャップを埋め、効果的な政策立案を促すために設立された。各国の政府がエビデンスに基づいて、化学物質や廃棄物、汚染防止に関する政策を策定できるように科学的知見やツールを提供する。環境省が同6月25日に発表した。
図1 「化学物質、廃棄物及び汚染に関する政府間科学・政策パネル(ISP-CWP)」の組織イメージ
出所 環境省 2025年6月25日、「化学物質、廃棄物及び汚染に関する政府間科学・政策パネル(ISP-CWP)の設立」
ISP-CWPでは5機能を提供
ISP-CWPは、化学物質と廃棄物の適正な管理を支援し、汚染を防止するための政府間組織。各国政府や専門家、国際機関などが参加し、各国、特に発展途上国に対し、化学物質、廃棄物、汚染防止に関する政策を策定する上での科学的助言を実施する。
具体的には、(1)新たな脅威を予測して対応策を提示するホライズンスキャニング、(2)地球規模での課題評価、(3)科学的研究のギャップ特定、科学者と政策決定者の間のコミュニケーション、(4)科学的情報を求める途上国との情報共有、(5)課題解決のための能力向上を図るキャパシティ・ビルディングという5つを支援する。
政府間科学・政策パネルとしては3番目。気候変動分野でのIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)注1、生物多様性分野でのIPBES( Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services:生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)注2に続いて設立された。
ISP-CWPの設立については、2022年に、化学物質、廃棄物、汚染防止に関する政府間科学政策機関の設立を求める国連環境総会(UNEA)決議が採択されたのを受け、国連環境計画(UNEP)を窓口に協議が開始した。2024年末までの議論完了を目標としていたが、2024年6月の作業部会(OEWG3)で意見がまとまらず、設立が持ち越しになっていた。今回、2025年6月19日、20日にウルグアイのプンタデルエステで開催された政府間会合でパネルの設立提案が最終化され、ISP-CWPの設立が採択された。同会合では、環境省の地球環境審議官である松澤裕共同議長を務めた。
国連環境計画(UNEP)の事務局長であるInger Andersen 氏は、「ISP-CWPは、化学物質と廃棄物の悪影響を最小限に抑え、汚染を防止するために、科学と協力が結集したことを象徴している。これは、世界的な廃棄物と汚染の危機に対処し、すべての人にとってより健康で安全な未来を確保するための、意義のある行動を起こすための第一歩だ」と強調し、「今後は、パネルの運用開始に注力し、各国を迅速かつ効果的に支援し、環境を守り、未来の世代を守る」と続けた。
UNEPによれば、化学物質は意図しない悪影響によって地球規模の汚染が進み、疾病負担が増大する可能性がある。また、都市固形廃棄物を例にするとその発生量は、2023年の21億トンから2050年までに38億トンに増加すると予測されている。加えて、大気汚染は年間650万人の死因と推定されており、近代的な汚染による死者数は過去20年間で66%増加している。
注1:IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル):気候変動について科学的、社会的、経済的な見地から評価し、政策提言する政府間組織。
注2:IPBES(Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services:生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム):生物多様性と生態系サービスの現状や変化を科学的に評価し、政策提言する政府間組織。
参考サイト
環境省 プレスリリース 2025年6月25日、「化学物質、廃棄物及び汚染に関する政府間科学・政策パネル(ISP-CWP)の設立」
環境省 2025年6月25日、「化学物質、廃棄物及び汚染に関する政府間科学・政策パネル(ISP-CWP)の設立について」