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大阪ガス、SOECによるe-メタン製造で世界最高レベルのエネルギー変換効率を目指す実証

ベンチスケール試験施設の運用開始
2025/06/05
(木)

2030年度に世界最高レベルのエネルギー変換効率へ

 大阪ガス株式会社(以下、大阪ガス)は、水蒸気を高温で電気分解してe-メタンの原料である水素などを生成するSOEC(Solid Oxide Electrolysis Cell)注1メタネーション技術を活用し、e-メタンを製造するための試験施設を竣工して試験運用を開始した。SOECメタネーション技術の実用化に向けて実証実験を実施し、2030年度に世界最高レベルのエネルギー変換効率を目指すという。2025年6月3日に発表した。

図1 ベンチスケール試験装置の外観

出所 大阪ガス株式会社 プレスリリース 2025年6月3日、「グリーンイノベーション基金事業におけるSOECメタネーションのベンチスケール試験施設の完成について」

SOECメタネーション技術で水とCO2からe-メタンを製造

 e-メタンは、再生可能エネルギー由来の電力(以下、再エネ電力)を使用して製造した水素とCO2を合成し、製造するメタンである。その製造コストの大きな割合を、再エネ電力が占めているという。

 大阪ガスが開発しているSOECメタネーション技術は、SOEC電解装置で再生可能エネルギーなどを使って水やCO2を電気分解し、水素や一酸化炭素を生成する。それらをメタン合成反応装置で触媒反応させ、e-メタンを合成するもの。

図2 SOECメタネーション技術の概要

出所 大阪ガス株式会社 プレスリリース 2025年6月3日、「グリーンイノベーション基金事業におけるSOECメタネーションのベンチスケール試験施設の完成について」

 水とCO2からe-メタンの原料を製造するため、水素を調達する必要がない。約700~800度という高温によって電気分解することで、再エネ電力の使用量を削減できる。さらに、合成時に発生する熱を電気分解のプロセスで活用することで、効率を高める。投入した電力エネルギー量に対し得られる燃料のエネルギー量の割合を示す「エネルギー変換効率」は、従来の製造法であるサバティエ反応メタネーション注2が約55~60%なのに対し、SOECメタネーションでは約85~90%になる。これらにより、再エネ電力を削減してコストダウンが可能だという。

 また、触媒の工程では、同社が独自開発したメタネーション触媒を使用する。同触媒は、触媒の中で実際に化学反応を起こす活性金属が均一かつ安定した状態で分散しており、高い活性を持ちながら高温でも劣化しにくい。これによって反応器を小型化したり、触媒のプロセスの効率を高められたりでき、コストの削減につなげられるという。

図3 大阪ガスが開発したメタネーション触媒の性能

出所 大阪ガス株式会社 プレスリリース 2025年6月3日、「グリーンイノベーション基金事業におけるSOECメタネーションのベンチスケール試験施設の完成について」

2030年代後半から2040年頃の実用化を視野に

 大阪ガスは、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金事業/CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクト」における、「SOECメタネーション技術革新事業」の採択を受け、SOECメタネーション技術を開発している。2024年度からは、ラボスケールで試験を実施してきた。

図4 「グリーンイノベーション基金」の採択事業の概要

出所 大阪ガス株式会社 プレスリリース 2025年6月3日、「グリーンイノベーション基金事業におけるSOECメタネーションのベンチスケール試験施設の完成について」

 今回完成した試験施設は、ベンチスケール(約200戸相当)試験を実施する。水蒸気を電気分解して水素を生成するためのSOEC水蒸気電解装置注3と、大阪ガスが開発した高性能触媒を充填したメタン合成装置を組み合わせ、装置性能の確認やプロセス全体の運転データを取得する。これにより、エネルギー変換効率を検証する。その後、水蒸気とCO2を同時に電気分解するSOEC共電解装置注4を新たに設置し、試験を実施する計画だ。

 このベンチスケール試験を経て、2028年度から2030年度にかけてパイロットスケールでの試験を進める計画である。2030年度に、世界最高レベルのエネルギー変換効率(約85~90%)となるe-メタン製造技術の確立を目標にしている。2031年度以降の実証フェーズを経て、2030年代後半から2040年頃の実用化を視野に入れている。


注1:SOEC(Solid Oxide Electrolysis Cell):固体酸化物を用いた電気分解素子。高温で作動し、水蒸気やCO2を効率的に電気分解できる特徴を持つ。
注2:サバティエ反応メタネーション:水素と二酸化炭素を触媒反応させてメタンと水を合成する従来型のメタネーション技術。比較的低温(約300~400℃)で進行する。
注3:SOEC水蒸気電解装置:水蒸気を電気分解し、水素を生成する高温電解装置。
注4:SOEC共電解装置:水蒸気と共にCO2を電気分解し、水素と一酸化炭素を生成する高温電解装置。

参考サイト

大阪ガス株式会社 プレスリリース 2025年6月3日、「グリーンイノベーション基金事業におけるSOECメタネーションのベンチスケール試験施設の完成について」

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