OAE技術を持つ米Vycarbに出資
出光興産株式会社(以下、出光興産)は、海洋アルカリ化(OAE:Ocean Alkalinity Enhancement)技術を活用し、大気中の二酸化炭素(CO2)除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)注1に取り組むスタートアップである米Vycarb Inc.(以下、Vycarb)に出資した(図1)。Vycarbが持つCO2除去量のMRV(測定:Measurement、報告:Reporting、検証:Verification)技術などの知見を獲得し、北米でCDR事業のモデルを構築するのが狙い。2025年9月19日に発表した。
図1 米Vycarbによる海洋アルカリ化(OAE:Ocean Alkalinity Enhancement)技術のイメージ
出所 出光興産株式会社 ニュースリリース 2025年9月19日、「海洋アルカリ化を活用した CO2除去 (CDR) に取り組む 米国スタートアップ Vycarb社に出資」
CO2除去量をセンサーでリアルタイム計測
OAE技術は、水中のCO2を石灰石などのアルカリ性鉱物を用いて固定化し、水中のCO2濃度を下げることで、大気中のCO2が海水や河川水に溶け込むのを促進する技術。CO2を年間数十億トン規模で削減・吸収するポテンシャルがあると見られている。
Vycarb は、海水や河川水のCO2の除去および貯留技術を開発している。今回、出光興産は、100%子会社の出光アメリカズホールディングス(IAH)を通じ、Vycarbに出資した。IAH 社長 兼CEO 杉原 啓太郎 氏は、Vycarb は OAE の領域で、大規模な設備を必要としないCO2除去・貯留プロセスを研究開発しており、大量のCO2除去を低コストで実現できる可能性がある」と説明する。
同社のOAE技術は、陸上に設置した小型コンテナ内の独自設備で、アルカリ性鉱物と海水や河川水を反応させてCO2を固定化し、炭酸塩・重炭酸塩と水にして海や河川へ放流する(図2)。
図2 Vycarbの実証設備
出所 出光興産株式会社 ニュースリリース 2025年9月19日、「海洋アルカリ化を活用した CO2除去 (CDR) に取り組む 米国スタートアップ Vycarb社に出資」
一般的にOAEはCO2除去量の正確な測定が課題とされるが、リアルタイム計測が可能な独自のセンサー技術を活用し、MRVの精度を担保しているのが特徴。
また、同社の設備は常温常圧で稼働し、大規模な集中設備を必要としない分散型である。そのため、低コストでの導入・運用が可能だという。
今後、国内外のスタートアップや関係機関との連携を強化し、CDRへの取り組みを戦略的に推進する方針である。特にCDRの先進市場と位置づける北米で、技術トレンドの把握と実証機会の拡大に注力し、新たな事業モデルの構築を目指す。
注1:CDR(Carbon Dioxide Removal):CO2除去。大気中から二酸化炭素を直接または間接的に取り除き、貯留する技術や取り組みの総称。
参考サイト
出光興産株式会社 ニュースリリース 2025年9月19日、「海洋アルカリ化を活用した CO2除去 (CDR) に取り組む 米国スタートアップ Vycarb社に出資」