専門資格が不要で既存の宅配便ネットワークで配送できる水素タンク
株式会社竹中工務店(以下、竹中工務店)と那須電機鉄工株式会社(以下、那須電機鉄工)は、既存の宅配便ネットワークで配送できる水素タンクを開発した。従来の水素タンクと比べてタンク本体が直径140mm、高さ606mm、重量29kgと小型・軽量で、専門資格がなくても扱えるという。タンクの素材として、那須電機鉄工製の「ナノ化鉄チタン水素吸蔵合金」(以下、水素吸蔵合金)を活用した。2025年6月6日に発表した。
図1 竹中工務店と那須電機鉄工が開発した水素タンクの外観
出所 株式会社竹中工務店 プレスリリース 2025年6月6日、「水素ガスを安全に貯蔵・運搬できる小型軽量の水素タンクを開発」
水素を吸収・貯蔵する合金の採用により高圧ガス保安法の適用範囲外に
竹中工務店によれば、現在、一般的に利用されている水素タンクは、約150気圧の高圧水素ガスが充填されており、高圧ガス保安法に基づき有資格者による取り扱いが義務付けられている。また、重量も50~60kg程度あり、運搬には専門業者が必要となるケースが多い。
今回開発した水素タンクは、水素を内部の水素吸蔵合金で吸収・貯蔵し、タンク内の圧力を高圧ガス保安法の適用範囲外となる1MPa(メガパスカル)未満に抑える。水素吸蔵合金は火炎を近づけても着火しない性質を持つため、消防法上の危険物にも該当しない。これらの特性により、特別な届け出や免許なしで取り扱えるという。
また、水素吸蔵合金は、水素ガスを数百~千分の1程度の体積で貯蔵できる。これにより、人力での運搬や一般的な宅配便を利用できるサイズを可能にした。水素利用機器への接続部にはワンタッチ式のクイックコネクターを採用している。
図2 竹中工務店と那須電機鉄工が開発した水素タンクと従来製品の比較
出所 株式会社竹中工務店 プレスリリース 2025年6月6日、「水素ガスを安全に貯蔵・運搬できる小型軽量の水素タンクを開発」
将来的にはオフグリッドでの電力供給を可能に
両社によれば、今回開発した水素タンクは、災害現場や建設現場など、幹線からの電力供給が困難な場所や、オフィスや一般家庭などでの活用を見込んでいる。将来的には、可搬型燃料電池とあわせて配送することで、全国各地でオフグリッドでの電力供給が可能である。水素タンク4本と燃料電池を組み合わせることで、約10kWh(一般家庭1日分の電力)を賄え、非常用電源としての活用も期待している。
今後、竹中工務店は本開発品を活用した可搬型電源装置の開発を、那須電機鉄工はタンクの容量向上や熱交換効率のさらなる向上といった技術開発を進め、環境負荷の少ない水素発電を基盤とした電源システムの構築を目指す。
水素吸蔵合金は、水素を放出する際に熱を吸収する性質があるため、連続して水素を取り出すとタンクが冷却され、放出量が低下するという課題があった。今回、タンク内部に効率的な熱交換構造を採用することで、この課題を解消したという。