ダイバータ外側垂直ターゲットの初号機を完成
三菱重工業株式会社(以下、三菱重工)と国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(以下、QST)は、南フランスで建設中の核融合実験炉イーター(ITER)注1で使用する機器「ダイバータ外側垂直ターゲット」の初号機を完成させた(図1)。ダイバータは、核融合反応で生じる不純物を排出し、反応を安定的に持続させるための重要部品の1つ。2025年度からの納入を目指す。2025年10月2日に発表した。
図1 三菱重工とQSTが完成させた「ダイバータ外側垂直ターゲット」初号機の外観
出所 三菱重工業株式会社 プレスリリース 2025年10月2日、「南フランス・核融合実験炉イーター向けダイバータ外側垂直ターゲット 実機初号機が完成」
2025年度から順次納入を開始
ダイバータは、トカマク型注2などの磁場閉じ込め方式の核融合炉で、炉心プラズマ中の燃え残った燃料や、核融合反応で生成されるヘリウムなどの不純物を排出するためのもの。核融合反応を安定的に持続させるためには不可欠な機器だという。
図2 ITERが開発数核融合炉でのダイバータの使用イメージ
出所 三菱重工業株式会社 プレスリリース 2025年10月2日、「南フランス・核融合実験炉イーター向けダイバータ外側垂直ターゲット 実機初号機が完成」
トカマク型装置の中で、高温のプラズマを直接受け止めるコンポーネントであり、その表面が受ける熱負荷は最大で20MW/m²に達する。これは小惑星探査機が大気圏に突入する際の表面熱負荷に匹敵し、スペースシャトルが受ける熱負荷の約30倍にも相当するという。
材料には、極大な熱負荷や粒子負荷に耐えるため、高融点材料であるタングステンなどが用いられる。タングステンは非常に硬く、難削材として知られているが、プラズマと対向する面にある部品の傾斜や段差、隙間を0.5mm以下という精度で加工した。
QSTは、ITER計画当初からダイバータの研究開発を主導しており、その知見と三菱重工の製造能力を組み合わせることで、ITERの炉内機器の中で最も製造が困難とされる外側垂直ターゲットの製作に取り組んできた。三菱重工は、QSTがITERに納入するダイバータの外側垂直ターゲット58基のうち38基を製作し、2025年度から順次納入を開始する予定だ。
今後、両者は、ITER計画に続く核融合原型炉の開発にも取り組むとしている。
注1:イーター(ITER)計画:フュージョンエネルギーの科学的・技術的実証を行うことを目的とした大規模な国際共同プロジェクト。日本、欧州、米国、ロシア、韓国、中国、インドが参加し、フランスで核融合実験炉を建設中である。
注2:トカマク型:核融合炉の主要な方式の1つ。ドーナツ状の真空容器の中で強力な磁場を発生させ、燃料となる超高温のプラズマを磁力線に沿って閉じ込める。
参考サイト
三菱重工業株式会社 ニュースリリース 2025年10月2日、「南フランス・核融合実験炉イーター向けダイバータ外側垂直ターゲット 実機初号機が完成」