米国の各州政府の政策
〔1〕米国の各州政府の温室効果ガス削減目標
米国における各州の政策としては、まず各州で定めた温室効果ガス削減目標がある。米国全50州のうち24州およびワシントンD.C.が削減目標を定めている。例えば、カリフォルニア州は2045年までのできるだけ早い時期に、カーボンニュートラルとなることを2018年に定めた。フロリダ州では、2025年までに1990年の水準に削減、2050年までに1990年比で80%削減することを2007年に定めた。
〔2〕各州政府の再エネの導入目標
次に、再エネの導入目標があるが、これはRenewable Portfolio Standard(RPS。電気事業者に一定の割合以上の再エネの利用を義務付ける制度)または類似の仕組みが用いられ、供給電力量のうちの再エネの割合が定められている。州内で電力供給を行う電力会社が、RPSの実施対象となる。
例えば、カリフォルニア州やハワイ州では2045年までに再エネ100%、イリノイ州やネバダ州では2050年までにカーボンフリー電力(再エネと原子力)100%を目指している。米国50州の温室効果ガス削減目標およびRPS(および類似の仕組み)を表1に示す。
表1 米国全50州の温室効果ガス削減目標およびRPS
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* 赤色は知事が共和党に所属、青色は知事が民主党に所属、アラスカ州の知事は無所属。
** 「行政機関による目標」とは知事が設定したが、法制化されていない目標。
*** 「カーボンニュートラル」と「ネットゼロ」は実質同等だが、原文のまま記載した。
**** 制度の名称については、RPSと実質に同等なものが多いが、原文の名称を記載した。
RPS:Renewable Portfolio Standard、RES:Renewable Energy Standard、AEL:Alternative Energy Law〔IA(アイオワ)州〕、RGR:Renewable Generation Requirement〔TX(テキサス)州〕、PR:Portfolio Requirement(ミズーリ州)、AEPS:Alternative Energy Portfolio Standard〔PA(ペンシルベニア)州〕
*****「クリーン電力」「カーボンフリー電力」「ゼロエミ電力」の定義は州によるが、一般的には再エネと原子力が含まれる。過去の目標でその後更新されていないものはブルーで記載。
****** IOU:Investor-owned utility。自治体や組合ではなく、投資家によって所有されている電力会社。
出所 温室効果ガス排出削減目標 https://www.c2es.org/content/state-climate-policy/, https://www.climatepolicydashboard.org/policies/climate-governance-equity/ghg-reduction-targets#greenhouse-gas-emissions-reduction-targets-by-state、
再エネ目標 https://www.climatepolicydashboard.org/policies/electricity/clean-energy-standard#clean-energy-and-renewable-portfolio-standards-by-state, https://www.cesa.org/projects/100-clean-energy-collaborative/guide/table-of-100-clean-energy-states/ をもとに筆者作成
〔3〕各州政府の具体的な施策
各州政府の具体的な施策は、連邦政府と類似の税控除や、リベート(費用の払い戻し)による助成策がある。
例えば、ウィスコンシン州の「Focus on Energy」プログラムは太陽光発電の案件に最大2万5,000ドル(農業事業者へは3万5,000ドル)、太陽光以外の再エネ案件に最大30万ドルのリベートを提供している。
また、テキサス州は太陽光発電に用いた用地に対する固定資産税を免税としているなど、複数の州で免税措置が施行されている。州の助成策と連邦の助成策は併用できることが多く、事業者は両者の助成策を利用することによって、助成策を使わない場合と比較して、事業の収益性を大幅に向上させることができる。
〔4〕米国での住宅用・業務用太陽光発電の助成策
米国では住宅用・業務用太陽光発電の助成策として、前述したネットメータリング(NEM)が一般的である。ネットメータリングとは、元来は、住宅用や業務用の太陽光発電で発電した電力のうち、自家消費せず逆潮流した分を電力消費量から相殺して精算する制度である。つまり、購入した電力と同じ価格で電力会社が買い取ることとなる。
ネットメータリングは州の制度であるが、電力会社が運用を行う。近年では、逆潮流分を単純に電力消費量から差し引きするのではなく、卸売電力価格で払い戻す「ネットビリング」へ変更を行う州がある。ネットビリングでは、買取価格が下がることと同等の効果となるため、太陽光発電オーナーの電気代の支払いが大きくなる。
州ごとの温室効果ガス削減目標、再エネの導入目標、再エネの助成策の有無は大きなばらつきがある。結果として、再エネの導入量も州ごとで大きく異なる結果となっている。例として、全供給電力量に対する太陽光発電由来の電力の割合を図2に示すが、最も導入が進んでいる州とそうでない州の割合は30倍以上の違いが生じている。
図2 米国の州別の太陽光発電由来の電力量の全供給量に対する割合
出所 Solar Energy Industries Association (SEIA) 、Q1 2025をもとに筆者作成
〔5〕EVなどクリーンエネルギー車に対する州政府の政策:LEV、ZEV
州政府の政策において、前述したRPS以外で大きな影響力をもつ政策の1つは、自動車の低排出車基準(LEV Standard: Low Emission Vehicle Standard)およびゼロエミッション車基準(ZEV: Zero Emission Vehicle Standard)がある。例えば、カリフォルニア州のZEV基準では、ゼロエミッション車の販売割合が2035年に100%になるように毎年の割合を定めている。
その他の推進要因
米国の連邦政府、州政府の政策に加え、電力市場や電力会社のプログラムが再エネの推進要因となることがある。例えば、テキサス州では長期の温室効果ガス削減目標や再エネ導入の目標はないが、電力市場が整備され、市場原理によって再エネや系統用蓄電システムの導入が進んでいる。