欧州各国のエネルギー政策
〔1〕ドイツ:火力・原子力発電を脱却し、再エネ中心の社会へ
EU加盟国の政策は、欧州グリーンディールと整合するように策定されるが、国の事情を反映したより詳細なものとなる。ドイツでは「エネルギーヴェンデ(Energiewende)」(エネルギー転換)という国家戦略のもとに、火力および原子力発電を脱却し、再エネ中心の社会に転換することを目指している。
ドイツのカーボンニュートラル達成目標年は、EUより5年早い2045年に設定、2040年までに1990年比で88%の温室効果ガス削減を目標としている。電力総消費量中の再エネの割合は2030年までに80%を目標としている。原子力発電の廃止は2023年に完了した 。エネルギーヴェンデでは、火力・原子力の再エネへの転換だけではなく、産業や建築部門の省エネルギーやエネルギー効率向上も大きな柱の1つとなっている。
ドイツのエネルギー政策が、エネルギーコストの増大につながり、製造業の不振、経済全体の低迷につながっているという批判はある。ドイツの国内総生産成長率は2022年に1.4%、2023年にはマイナスに転じ、-0.3%となった。2024年も-0.2%だったが、2025年にようやくプラスに転じる見込みである。今後、エネルギー転換の継続と経済成長の実現を両立できるかが注目点である。
〔2〕英国:2035年までに81%の温室効果ガスを削減(1990年比)
EUから離脱した英国だが、EUと同様、2050年までにネットゼロ達成の法定目標を設定している。英国では、2024年7月に労働党のスターマー首相による新政権が始動したが、2024年11月に行われたCOP29(国連気候変動枠組条約第29回締約国会議)において2035年までに1990年比で81%の温室効果ガスを削減する野心的な目標を発表し、気候変動への取り組みを強めている。
再エネ普及のための施策としては、日本が制度設計のモデルとした固定価格買取制度(FIT)を欧州各国は採用していたが、現在はFITを縮小または廃止し、別の施策に移行している国が多い。英国も2019年に新規の申請受付を停止している。その他のEU諸国は、スペインとポルトガルはともに2012年、イタリアは2013年、ドイツは小型を除き2014年に新規受付を停止した。
〔3〕ポルトガル:再エネのシェアが71%へ
ポルトガルは、2024年に大きく再エネのシェアを伸ばし、71%となった。そのうち太陽光発電は10%だが、前年比で37%も増加した。2012年に廃止された固定価格買取制度の代わりに使われているのは、競争入札、市場価格連動型の買取制度、PPA(Power Purchase Agreement、電力購入契約)などである。
PPAの収益予見性の良さ、そのために融資を確保しやすいことが太陽光発電の大幅成長につながっているという見方もあり、直接的な助成策なしでも再エネの導入を促進できる市場環境づくりが行われている。
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今後の課題:産業の脱炭素推進と競争力強化をどう実現するか
第2次トランプ政権ではパリ協定の脱退も行われ、気候変動対策を重視しない方向性が示されている。これによって変化するのは、連邦政府の政策である。ITCやPTCのように再エネの普及に貢献度の大きい連邦の制度はあるが、州政府も再エネやEV推進を担っており、連邦政府が気候変動対策の手を緩めたからといって、再エネ普及のすべてが止まるわけではない。今後は連邦政府の政策変更の影響に注目したい。
また欧州では、欧州グリーンディールという包括的な政策パッケージの中で脱炭素やクリーンエネルギーの推進が行われている。欧州グリーンディールは、産業政策を含む成長戦略であるが、いまのところ欧州各国は景気低迷を経験しており、脱炭素推進と競争力強化をどのように実現するかが今後の課題となっている。
(つづく)
◎著者プロフィール
大串 康彦(おおぐし やすひこ)
1992年に荏原製作所入社後、環境・エネルギー技術の開発に従事。2006~2010年にカナダBC Hydroでスマートグリッド事業を担当。2016~2017年は英国RES日本法人で系統用蓄電池事業に従事。2017~2023年にLO3 Energyの日本担当ディレクターを務める。現在は産業戦略アナリストとして、グローバルな産業政策と企業戦略の分析・立案を行う。
著書に『商用化が進む電力・エネルギー分野のブロックチェーン技術』(インプレス)『蓄電池ビジネス戦略レポート』(日経BP)がある。