【2】欧州連合(EU)のエネルギー政策 |
欧州では、27カ国が加盟する欧州連合(European Union: EU)が加盟国の脱炭素や再エネを主導する構造となっている。欧州連合の加盟国を図3に示す。
図3 欧州連合(EU)の加盟国:27か国(黄色が欧州連合の加盟国)
出所 © 欧州連合、1995-2025、以下のサイトをもとに国名を日本語で加筆
https://european-union.europa.eu/principles-countries-history/eu-countries_en
欧州連合(EU)の政策:欧州グリーンディールを推進
〔1〕規則(Regulation)や指令(Directive)で実施
EUの包括的な政策は、2019年12月に発表された欧州グリーンディール(The European Green Deal)である。欧州グリーンディールは、環境やエネルギーがテーマとなっているものの、EUの経済の構造転換の実現に向けた成長戦略であり、包括的な政策パッケージである。欧州グリーンディールでは、2050年にEU全体でカーボンニュートラルを達成、2030年までに1990年比で55%の温室効果ガス削減の目標が定められた。
具体的な政策は、欧州グリーンディールの下で発効する規則(Regulation)や指令(Directive)を通じて実施される。「規則」は、加盟国各国が法制度化する必要がなく、そのまま加盟国に適用される。「指令」は、加盟国が各国で法制度化する必要がある。
〔2〕再エネの普及を目的としたEUの政策:再エネ指令(RED)
再エネの普及を目的としたEUの政策は、再エネ指令(Renewable Energy Directive: RED)である。REDは、2009年にRED Iとして制定されたが、その後改定され、最新のものは2023年11月に発効したREDIIIとなっている。REDでは2030年における最終エネルギー消費に占める再エネの割合を引き上げ、少なくとも42.5%としている。
欧州グリーンディールの下には、サーキュラーエコノミー(循環経済)行動計画(Circular Economy Action Plan)が2020年に制定された。さらに、同行動計画の下にはエコデザイン規則(Ecodesign for Sustainable Product Regulation)や電池規則(Battery Regulation)があり、それぞれ2024年、2023年に発効した。
エコデザイン規則では、製品のライフサイクルにおける環境影響に関する情報を電子的に格納し、消費者などの必要な人がアクセスできるようにするデジタル・プロダクト・パスポート(Digital Product Passport: DPP)が定められた。電池規則では、DPPの先行事例ともいえるバッテリー・パスポート(Battery Passport)がEU域内で販売されるEV用や定置用蓄電池の要件として定められた。
〔3〕EUの温室効果ガスの排出権取引制度を実施
EUは、温室効果ガスの排出権取引制度も早期に着手した。排出権取引制度は、個々の事業者が単独に排出削減の努力を行うよりも排出削減の社会全体の費用総額を最小にするための制度である。EUの排出取引権制度であるEU-ETS(EU Emission Trading System)は、2005年に開始され、現在、すべてのEU加盟国とアイスランド、ノルウェー、リヒテンシュタインで運用されている。
さらに、EU域外で生産された製品に伴う温室効果ガス排出を捕捉するために、炭素国境調整メカニズム(Carbon Boader Adjustment Mechanism::CBAM、シーバムと読む)の運用が2023年から移行期として開始され、2026年に本格実施される予定だ。
〔4〕「ドラギ・レポート(Draghi Report)」:競争力と脱炭素の両立を図る
欧州グリーンディールが成長戦略を意図されているにもかかわらず、2022年以降、EUはエネルギー価格の高騰や、経済の低迷が課題となっている。EUは、欧州グリーンディールでクリーンエネルギー産業の競争力強化を目論んだが、同産業では中国が台頭し、EUの当初の思惑は実現しなかった。ドイツの国内総生産成長率(GDP成長率)は2023~2024年はマイナス、フランスも1.1%の低い水準であり、中国や米国に大きく劣後する結果となっている。
2024年9月に発表された「ドラギ・レポート(Draghi Report)」注2では、EUの脱炭素に向けた政策方針を貫くことが確認され、競争力と脱炭素の両立を図ることが強調された。
注2:トラギレポート:欧州中央銀行総裁やイタリア首相を務めたマリオ・ドラギ(Mario Draghi)氏が監修したことに由来。